やけくそアップ→改め「花嵐」②/⑤ [捏造◆作文]
先日、『新冷血』完結前のテンパッた中で、勢いに任せて書き出してしまった例のアレの、続きです。
またまた、書き上げたそのまんま、勢いだけでアップしちゃいます。
落としどころも未定だし、全何回かも五里霧中~(^_^;)
オチが決まるまで完結の見込みも分からんし、タイトルも決まりません。
こうなりゃもう、完結まで「やけくそ」で行くぞ!
……昨日までのブログとの、なんたる違いだ……orz
すみません、すみません、すみません
何だか、始まっちゃってますけど、一体どこへ着くんでしょうねぇ……。
ま、どこの地平線かは知りませんが、激甘グラニュー糖砂漠なのは間違いありません!
ご安心を!(…安心か?^_^;)
***************************************
「何で、こんなとこにツマミが隠してあんねん」
広々とした室内を物珍しそうに探検していた雄一郎が、絨毯の真ん中に屹立する用途不明の胸高の角柱が、一見では分かりにくい小さな戸棚になっているのを発見した。愉快そうにくすくす笑いながら、収納されていた乾き物や菓子の類いを取り出して並べている。
「ここは去年だかの開業だが、企画や設計なんかはバブル全盛の頃だろうからな。脳天気な時代の置き土産だな」
義兄のクールな評が返るが、確かに、内装といい設備といい、ホテルというよりは現代アートの画廊と言いたい素っ頓狂さだ。
探索の途が、長大なジャグジー付き浴槽が黒大理石の上に高々と据えられた、洗練の粋といったモノトーンの浴室に至るや、雄一郎は眉を跳ね上げた。曇り加工もない素通しガラスで囲われたシャワールームが、居間からも丸見えに浴室に隣接している。
「何じゃあ、こりゃア」
面食らったまんまを投げ出した、素直過ぎるその呆れ声に、祐介は吹き出しそうになる。
「堂々と営業しとる普通のホテルやろが……」
「大人の隠れ家、高級シティホテル。あちらの流行りだろう」
この風呂に浸かる己を想像してしまったのだろう、面映ゆさを押し隠した仏頂面で罵る雄一郎に、祐介の頬が柔らかく緩む。
壁に設えられたミニバーにずらりと揃ったボトルを物色し、備え付けの冷蔵庫から出した氷を添える。端正な専任バーテンダーは、無論のこと祐介だった。
「ツマミは君の受け持ち。適当に見繕ってくれよ?」
にやにや笑いながら義弟に言い付けると、上目遣いにきゅっと睨んで、無言で取りに行く。
その背中を見送る祐介の顔に浮かんでいた微笑が、ゆっくりと消え失せる。
こんな機会を捕まえて、他愛もないネタで笑い合い、二人きり、穏やかな時を共有する。
これが日常か。
あれは、この身が灼けるほど焦がれに焦がれていた義弟、その人か。
18年もの間、常に足元にぽっかりと口を開け、己を呑み込む時を待ち構えているそれを、ずっと傍らに眺め続けていた。自らの親しい一部と化したような、その黒々とした絶望の淵に遂に身を投げたのは、ほんの昨年末のことだ。その後、波乱の曲折を経て何とか年を越し、両者ともに少し前までは想像もしなかった姿に落ち着こうとして、ようやくの春―――、。
雄一郎の側近くで過ごす、暖かで明るい時間をもう何度か持ちながら、どうしても信じられない。現実感が淡い。まだ、慣れない。
いつか、慣れる日が来るのだろうか。
――こんな温みで、俺などには十分過ぎるのかもしれない。俺はお前に甘えることを覚え、多くを望み過ぎているのではないか……
祐介が永年その身内に飼い馴染んだ暗澹は、未だ諦めず、隙あらば掻き抱こうと今も背後から宿主を窺っていた。
「見るなよ?」
「学生時分から見慣れてるよ。若干老けただけで、概ね変わりないだろ」
祐介の言いぐさと来たら、この冗談じみた凄まじい舞台装置を前に、全く色気もそっけもない。だが、正直それに救われて、雄一郎もどうやら風呂に入ることが出来そうだった。
それにしても、電話ボックスでもあるまいに、何が楽しくてガラス張りシャワールーム……。設計した奴のすけべ面を見てやりたいわ。
――というか、俺ら。男二人でスイートルーム取ってる…のか? 遅蒔きながら、今さら怖いことに気付いてしまった雄一郎である。
とはいえ。予約もチェックインも何も、この公休が決まった時から過ごし方プランは全て義兄任せだから、もう考えても遅いことは考えないことにしよう。
そう開き直って、高価な調度が提供する非日常な空間を満喫することにした雄一郎だが、そうして鼻歌交じりに全身の洗浄作業に没頭していることが、すでにして日常ドップリである。「色めかしいガラスの中の美丈夫」といった淫靡なる図とて実現可能なセットに在っても、主演俳優のその気皆無ばかりは、壊滅的に如何ともし難い。
大体、雄一郎のやつ、自分を見て俺がどんな反応を起こすかとか、自分が俺に及ぼす作用だとか、少しでも考えたことがあるのかね。祐介の内心の嘆きは、当然のことに尤もであるが。
――相も変わらぬ野暮の家元、可愛い朴念仁め。
泡まみれで上機嫌の雄一郎を見守りながら、もう慣れっこのため息一つ。視界あるいは思考の内に義弟を捉えると、祐介の中に勝手に湧き起こる、甘過ぎる激痛を生む至福。もう長く馴染みのそれだけを胸に抱き、だがその清廉な美貌には、透き通るような優しい苦笑いしか表れてはいない。
「祐介も入れや。このまま落としてまうのは勿体ないぞ。見てみい、バスタブが泡の海や」
「……己は小学生か…」
がっくりと肩を落としつつ、笑顔の義弟を見遣る祐介の目は、溶け入るように柔らかい。
風呂上がりは室内の照明を落とし、窓に映る夜景をバースディのキャンドル代わりに、グラスを掲げ。ぽつりぽつりと交わす会話が最高の伴奏で、惜しみなく過ぎるに任せる時の流れが無上の贅沢。
そんな二人きりの酒宴をゆるりと愉しみ、気がつくと時計の針も随分右に傾いていた。
しがらみも二重底もない酒はさばさばと旨く、差し向かう眸はとろりと甘く。心地よい杯は相当数重ねられ、ザル二人にしてもさすがに限度を超えて、したたかに酔いが回っていた。
外でこんなに手放しで酔うなんて、初めてと違うか。――ひょっとして、祐介と一緒やからか。胸にぽつりと落ちる、そんな推量も胸苦しいほどに甘く、散々呷った濃いスコッチよりも、その甘苦しさに酔わされる。
ソファに抱き取られた躰を、強い眠気と酩酊感が波のように繰り返し襲う。その喪心の瞬間は、一切を投げ出す放埒を呼び込み、雄一郎を掠う波の頂には、性の絶頂を思わせるような快感があった。
何度目かの波に、また浸される。もう今度こそ流されようか、全部捨ててしまおうか…と迷うこと、また、力の限りに抵抗すること、それ自体が烈しい悦楽となり、指先まで震えが走る。崖っぷちで己を賭け代に破滅と戯れる陶酔に、全身が痺れる。
――ああ、祐介、死にそうや。助けてくれ。
いや………いっそ
あんたこそ俺に、とどめを刺してくれ。
重過ぎる瞼をやっと半分ほどこじ開けると、義兄の怖いように透徹した目が至近にあった。訳も分からぬまま、雄一郎を微かな身震いが貫く。
眠りは小さな死。冥い影の落ちた、義兄の底知れぬ双眸を覗き込むと、意味も分からない連想がぽかりと浮かび上がった。
――ああ、そうだ………、この感じは初めてではない。
致命傷を負わされ、己を刺した斬撃者とただ二人、狭すぎる密室に閉ざされたあの夜闇。
――違う、お前ではない。俺は間違えた。死んでもいいと己を投げ出すのは、お前の足元などではない。
死んでもいい。
そうだ。俺が何もかもを投げ出すのは、祐介………お前、ただ一人―――
どこかの細い神経を一縷残し、ほとんど冥界にある雄一郎の心底に生じた望みを、一体どうして義兄が察したのかは分からない。だが、その一瞬を過たず捉え、雄一郎の指一本動かせぬ躰を、義兄の腕が確かに掬い上げた。脇から背に回った腕と、髪を掻き撫でながら頭を抱える腕に渾身の力がこもり、皮膚も溶けよと抱きしめる。
「雄一郎………っ」
続く吐息が、愛している…と、つらそうに告げる。
――つらそう…? 何故?
疑問とも言えぬ泡沫が脳裏に生じるが、そうする間にも肺葉から絞り出される呼気が、自らの舌に耐えがたいまでに甘い。
――ゆう、すけ……
もっとだ。
もっと、抱いてくれ。
◆「やけくそ③/⑤」につづく◆
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またまた、書き上げたそのまんま、勢いだけでアップしちゃいます。
落としどころも未定だし、全何回かも五里霧中~(^_^;)
オチが決まるまで完結の見込みも分からんし、タイトルも決まりません。
こうなりゃもう、完結まで「やけくそ」で行くぞ!
……昨日までのブログとの、なんたる違いだ……orz
すみません、すみません、すみません
何だか、始まっちゃってますけど、一体どこへ着くんでしょうねぇ……。
ま、どこの地平線かは知りませんが、激甘グラニュー糖砂漠なのは間違いありません!
ご安心を!(…安心か?^_^;)
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「何で、こんなとこにツマミが隠してあんねん」
広々とした室内を物珍しそうに探検していた雄一郎が、絨毯の真ん中に屹立する用途不明の胸高の角柱が、一見では分かりにくい小さな戸棚になっているのを発見した。愉快そうにくすくす笑いながら、収納されていた乾き物や菓子の類いを取り出して並べている。
「ここは去年だかの開業だが、企画や設計なんかはバブル全盛の頃だろうからな。脳天気な時代の置き土産だな」
義兄のクールな評が返るが、確かに、内装といい設備といい、ホテルというよりは現代アートの画廊と言いたい素っ頓狂さだ。
探索の途が、長大なジャグジー付き浴槽が黒大理石の上に高々と据えられた、洗練の粋といったモノトーンの浴室に至るや、雄一郎は眉を跳ね上げた。曇り加工もない素通しガラスで囲われたシャワールームが、居間からも丸見えに浴室に隣接している。
「何じゃあ、こりゃア」
面食らったまんまを投げ出した、素直過ぎるその呆れ声に、祐介は吹き出しそうになる。
「堂々と営業しとる普通のホテルやろが……」
「大人の隠れ家、高級シティホテル。あちらの流行りだろう」
この風呂に浸かる己を想像してしまったのだろう、面映ゆさを押し隠した仏頂面で罵る雄一郎に、祐介の頬が柔らかく緩む。
壁に設えられたミニバーにずらりと揃ったボトルを物色し、備え付けの冷蔵庫から出した氷を添える。端正な専任バーテンダーは、無論のこと祐介だった。
「ツマミは君の受け持ち。適当に見繕ってくれよ?」
にやにや笑いながら義弟に言い付けると、上目遣いにきゅっと睨んで、無言で取りに行く。
その背中を見送る祐介の顔に浮かんでいた微笑が、ゆっくりと消え失せる。
こんな機会を捕まえて、他愛もないネタで笑い合い、二人きり、穏やかな時を共有する。
これが日常か。
あれは、この身が灼けるほど焦がれに焦がれていた義弟、その人か。
18年もの間、常に足元にぽっかりと口を開け、己を呑み込む時を待ち構えているそれを、ずっと傍らに眺め続けていた。自らの親しい一部と化したような、その黒々とした絶望の淵に遂に身を投げたのは、ほんの昨年末のことだ。その後、波乱の曲折を経て何とか年を越し、両者ともに少し前までは想像もしなかった姿に落ち着こうとして、ようやくの春―――、。
雄一郎の側近くで過ごす、暖かで明るい時間をもう何度か持ちながら、どうしても信じられない。現実感が淡い。まだ、慣れない。
いつか、慣れる日が来るのだろうか。
――こんな温みで、俺などには十分過ぎるのかもしれない。俺はお前に甘えることを覚え、多くを望み過ぎているのではないか……
祐介が永年その身内に飼い馴染んだ暗澹は、未だ諦めず、隙あらば掻き抱こうと今も背後から宿主を窺っていた。
「見るなよ?」
「学生時分から見慣れてるよ。若干老けただけで、概ね変わりないだろ」
祐介の言いぐさと来たら、この冗談じみた凄まじい舞台装置を前に、全く色気もそっけもない。だが、正直それに救われて、雄一郎もどうやら風呂に入ることが出来そうだった。
それにしても、電話ボックスでもあるまいに、何が楽しくてガラス張りシャワールーム……。設計した奴のすけべ面を見てやりたいわ。
――というか、俺ら。男二人でスイートルーム取ってる…のか? 遅蒔きながら、今さら怖いことに気付いてしまった雄一郎である。
とはいえ。予約もチェックインも何も、この公休が決まった時から過ごし方プランは全て義兄任せだから、もう考えても遅いことは考えないことにしよう。
そう開き直って、高価な調度が提供する非日常な空間を満喫することにした雄一郎だが、そうして鼻歌交じりに全身の洗浄作業に没頭していることが、すでにして日常ドップリである。「色めかしいガラスの中の美丈夫」といった淫靡なる図とて実現可能なセットに在っても、主演俳優のその気皆無ばかりは、壊滅的に如何ともし難い。
大体、雄一郎のやつ、自分を見て俺がどんな反応を起こすかとか、自分が俺に及ぼす作用だとか、少しでも考えたことがあるのかね。祐介の内心の嘆きは、当然のことに尤もであるが。
――相も変わらぬ野暮の家元、可愛い朴念仁め。
泡まみれで上機嫌の雄一郎を見守りながら、もう慣れっこのため息一つ。視界あるいは思考の内に義弟を捉えると、祐介の中に勝手に湧き起こる、甘過ぎる激痛を生む至福。もう長く馴染みのそれだけを胸に抱き、だがその清廉な美貌には、透き通るような優しい苦笑いしか表れてはいない。
「祐介も入れや。このまま落としてまうのは勿体ないぞ。見てみい、バスタブが泡の海や」
「……己は小学生か…」
がっくりと肩を落としつつ、笑顔の義弟を見遣る祐介の目は、溶け入るように柔らかい。
風呂上がりは室内の照明を落とし、窓に映る夜景をバースディのキャンドル代わりに、グラスを掲げ。ぽつりぽつりと交わす会話が最高の伴奏で、惜しみなく過ぎるに任せる時の流れが無上の贅沢。
そんな二人きりの酒宴をゆるりと愉しみ、気がつくと時計の針も随分右に傾いていた。
しがらみも二重底もない酒はさばさばと旨く、差し向かう眸はとろりと甘く。心地よい杯は相当数重ねられ、ザル二人にしてもさすがに限度を超えて、したたかに酔いが回っていた。
外でこんなに手放しで酔うなんて、初めてと違うか。――ひょっとして、祐介と一緒やからか。胸にぽつりと落ちる、そんな推量も胸苦しいほどに甘く、散々呷った濃いスコッチよりも、その甘苦しさに酔わされる。
ソファに抱き取られた躰を、強い眠気と酩酊感が波のように繰り返し襲う。その喪心の瞬間は、一切を投げ出す放埒を呼び込み、雄一郎を掠う波の頂には、性の絶頂を思わせるような快感があった。
何度目かの波に、また浸される。もう今度こそ流されようか、全部捨ててしまおうか…と迷うこと、また、力の限りに抵抗すること、それ自体が烈しい悦楽となり、指先まで震えが走る。崖っぷちで己を賭け代に破滅と戯れる陶酔に、全身が痺れる。
――ああ、祐介、死にそうや。助けてくれ。
いや………いっそ
あんたこそ俺に、とどめを刺してくれ。
重過ぎる瞼をやっと半分ほどこじ開けると、義兄の怖いように透徹した目が至近にあった。訳も分からぬまま、雄一郎を微かな身震いが貫く。
眠りは小さな死。冥い影の落ちた、義兄の底知れぬ双眸を覗き込むと、意味も分からない連想がぽかりと浮かび上がった。
――ああ、そうだ………、この感じは初めてではない。
致命傷を負わされ、己を刺した斬撃者とただ二人、狭すぎる密室に閉ざされたあの夜闇。
――違う、お前ではない。俺は間違えた。死んでもいいと己を投げ出すのは、お前の足元などではない。
死んでもいい。
そうだ。俺が何もかもを投げ出すのは、祐介………お前、ただ一人―――
どこかの細い神経を一縷残し、ほとんど冥界にある雄一郎の心底に生じた望みを、一体どうして義兄が察したのかは分からない。だが、その一瞬を過たず捉え、雄一郎の指一本動かせぬ躰を、義兄の腕が確かに掬い上げた。脇から背に回った腕と、髪を掻き撫でながら頭を抱える腕に渾身の力がこもり、皮膚も溶けよと抱きしめる。
「雄一郎………っ」
続く吐息が、愛している…と、つらそうに告げる。
――つらそう…? 何故?
疑問とも言えぬ泡沫が脳裏に生じるが、そうする間にも肺葉から絞り出される呼気が、自らの舌に耐えがたいまでに甘い。
――ゆう、すけ……
もっとだ。
もっと、抱いてくれ。
◆「やけくそ③/⑤」につづく◆
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2011-10-31 01:45
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