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雪の夜 [捏造◆作文]

 リアルで、げこの住まいの近所では週末からこっち、この冬一番の降雪に
見舞われています。
 家の中から見る雪は、常には意識しない空間の奥行きを彩って、
手前はゆったり、奥へ行くほど足早に、大小の雪片が下へ下へと死に急ぎ、
うっとりするほど綺麗です。

 ……で、1本捏造してしまいました(^_^;)
 雪のタマモノです[雪]
 いや、義兄弟(特に義兄? いや2人とも?)には単なる災難やな!(爆)
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 年が明けて半月余り。新年会も一巡し、ようやく各所が通常運転で恙なく回り始めた頃、首都を初雪が見舞った。積雪1cmで毎年飽きもせず高速は渋滞し、電車は止まっては再開し、救急車は走り回る。
 帰宅を急ぐ勤め人満載の乗車率200%に揉みくちゃにされながら、祐介は毎度お馴染みの他人宅へ辿り着いた。当然のことに、年中激務に追い回されている家主の姿はないが、雪に里心を誘われてか、無性に部屋を暖めておいてやりたかったのだ。不器用で孤独な想い人が、雪降りしきる外界と同じほどに冷え切った部屋に帰り着く…というイメージに、己が耐えられなかった。
 この部屋へ通い始めるようになって以来の短い間に、気付けば習い性になっていた自らの感傷癖に苦笑するが、そんな自分が嫌いではなかった。20年来、問答無用で押し殺しているうちにすっかり見失ってしまった自分の本来、本性といったものは、存外そんな陳腐でヤワなものだったのかもしれない。
 買ってきた食材で、出番はなさそうな簡単な夜食を用意し、風呂を沸かし。日付が変わるまで、グラスを重ねながら家主の帰りを待ったが、残念だが今回は待ちぼうけに終わりそうな成り行きだった。
 だが、待つのもまた楽し。想い人の服や本や気息に満ちた部屋で、のんのんとその帰宅を待つことを許された今の身分は、自分には幸せ過ぎるかもしれない。
 ――色惚けここに極まれり、か。
 目の色もタガも緩みまくった顔が映り込んだウィスキーを、祐介はひとり微笑と一緒に飲み干した。


 いつものように勝手に延べた布団で寝入っていた、その未明。
 深い眠りの底をたゆたう祐介の頭に、傍らをよぎる音無き足音、その軽い振動が伝わったような気がした。ベッドがごく僅か、軋んだような……。
 安らかな混沌から覚醒へ、ゆらりと浮上してみると、部屋には物音もなく、動く気配もない。暗がりの中、隣のベッドを見遣るが、寝具もほとんど平らで変わりはないように見える。
 ――気のせいか?
 期待のしすぎか。己の諦めの悪さに苦笑いしつつ、ぷかりと息継ぎだけして、また眠りに潜り込んだ。だが、水底にゆっくりと身を落ち着けるひまもなく、今度は明瞭な衣擦れの音が耳に届いた。
 えっ? と飛び起きると、待ちかねた相手としか思えぬ姿が、寝床の中で転々としている。
 ええっ? 先刻は居なかったのに! どこから降って湧いた!?
 至ってマヌケな言いぐさだったが、祐介にとってはそれが偽らざるところだった。
 ――天にも地にも唯一人の俺の雄一郎は、なんて薄くて軽いんだ………
 こんな頼りないものに、我が身の共感センサーを全身移植して、己の魂のキルスイッチを全幅で預けているのか、俺は。命知らずというか、祐介は自らの蛮勇に拍手を贈りたくなった。
 痛々しいやら心配やら愛おしいやら。本当に、どうしてくれよう。時を置いてたまにしか実現しない逢瀬で、情人を見るたび例外なく張り倒される情動にまたもや支配され、無力にため息をつきつつ、祐介は内心にボヤかずにはいられない。
 ――真性ドMと言われても、俺には何一つ反論出来んな……
 我知らずがっくりと肩を落とす彼だったが、ベッドから聞こえた苦しげな呻きに我に返った。
「雄一郎?」
 慌てて枕元に身を寄せて見ると、雄一郎は頻りに寝返りを繰り返しながら、どうにも寝付けない様子だった。見るからに疲労困憊といったざまの白く冷たい顔は、意識半ばで表情も失っているのに、これで眠れないとは死にかけのゾンビといった状態だろう、いかにもつらそうだ。(しかし言うに事欠いてゾンビ……。己で比喩しておいて涙を禁じ得ない祐介だ)
「眠れないのか?」
 そっと問いかけると、半死半生でも甘えられる相手の声は本能で抜かりなく聞き分けるのか、「寒い……」と想い人は息音だけで訴えた。
 寝具を剥ぐって隣に入ってみれば、雄一郎の四肢は氷の冷たさだった。――ああ、もうっ! 追い炊きすればすぐ入れるようにしておいてやったのに、風呂くらい入れ! 瞬時に炸裂した説教で頭蓋を満たした祐介だったが。
 ……清潔命、というより不潔恐怖症に近い雄一郎が、勤務明けの風呂にも入らずにベッドに倒れ込むほど、今回のヤマはキツかった、ということか。察すれば気分は一転、祐介の胸は労しさと同情でいっぱいに塞がれた。
 腕を抱え、脚を絡ませ、接触面積をなるべく多く取って温まるよう努めてやる。みるみる体温が奪われてこちらの指先という指先が痺れてくるが、反比例して相手は徐々に人間らしい血色になっていくのを薄明かりに見守った。
 まったく。家庭内雪山遭難だな。安堵と共に笑えてくる。
「もう解凍したか?」
 微笑み混じりに声を掛けてやると、
「鼻先が冷たい……」
 半ば以上眠り込みながら、まだ注文をつける。こいつのこの手放しのワガママっぷりが曲者なんだ……。もはや潔く白旗を振り回し、胸に抱き込んでやれば、警部殿は鼻面を胸板にこすり付けてくる。
 つむじしか見えないのが淋しいが、せめてもにその髪に顔を埋め、煙草や都会の塵芥や排ガスのにおい、歓迎しないそれらの中から、微かな雄一郎の汗の匂いを嗅ぎ分ける。
 やがて、腕の中の痩身からくたりと力が抜けると同時に、唇から満足のため息を零し、ようよう雄一郎は熟睡に入っていった。


 これで終われば、美しくはないが、ある種微笑ましい一夜の情景ではあったのだが。
 爆睡に沈み込む雄一郎と入れ替わりに、むくりと目を覚ましたモノがあった。

 忙殺――忙しさに殺される、という字句そのままに、最近は雄一郎と会話らしい会話がなかなか出来ない。だがその割に所在無さや無聊をさほど感じずにいられるのは、イブ以前とは違って、そんな中でも“会話じゃない会話”はなんとか出来るおかげだろうか。
 眠りの海の底に去る情人を、いとも紳士的に見送りながら、そんなニヤケた方角に思考を飛ばしたのは大失敗だった。
 遭難者を蘇生させる救助者、あるいは雛鳥を温める親鳥を任じていた先刻まではついぞ感知しなかった、絡めた四肢のすべらかさ、かぐわしい皮膚の匂い、重なった胸から流れてくる甘い吐息。暖かい寝床の中で、そういった致命的な諸々に密着して包囲されている自分に今さら気付き、愚かな祐介は、可燃物であった自らを最後に思い出した。……いや、むしろ爆発物か?

 当初はもちろん、ようやくのことに眠れたゾンビ、もとい想い人を叩き起こすつもりなど、露ほども思わなかった己にウソはない。それは神掛けて。
 ただ――、ここまで尽くした溺愛のしもべに、少しくらいの報酬は下されても良いよな、と悪戯心が唆すのには抵抗しきれなかった、のだ。起こさなければいいよな。なに、これだけ深く寝入っているんだし、……少しだけ。
 誠心で温めてもなお皮膚の奥にひんやりとした冷たさを潜めた、淫欲とは無縁そうなところが逆に何ともそそられる肢体は、体毛も体臭も薄く、総じて男臭さというものがほとんどない。かといって、女性的な丸みも柔らかみも更に皆無なところが、雄一郎だけの雄一郎らしさ、というか。
 ――中性的なのではなく、無性的なのだ。などと今更な分析をしては遅蒔きな方向転換を図るのだが、その一方で上膊や脛をすり合わせ、すんなりとした肌触りを楽しむのを止められない。
 袖口のボタンを外し、少しだけ侵入する。ああ、あばらがこりこりに浮いているなぁ…と軽く指先で辿ったところで、はぁ……っ、と呼気が凝集し、即応した上体が弓なりに撓った。
 うひゃっ!と飛び上がったのは、悪戯していた祐介の方だ。
 ――な、なんだ、このいきなりな高感度は。
 まさか……起こしてしまった? と恐る恐る覗き込むが、蒼白な貌は目を瞑ったまま、何の表情も湛えていない。
 しからば…と両手をさらに奥に進め、浮いた背の下に差し入れて、尖った貝殻骨を大切に掬い取る。雄一郎の全身くまなくフェティッシュに愛して止まない祐介だが、特にこの肩胛骨から首筋にかけての骨格は、目で手指で、どれだけ愛でても足りるということがない。撫でる指にも己の熱い吐息にも、いつか応えて未知の妙なる音色を響かせるに違いない。
 覚えず耽溺していると、本当に妙なる啼き声が耳朶に触れた。どこまでも控えめな、それだけに気付いた時には手遅れなほどに毒されてしまう、甘過ぎる絶え絶えな歎声。
 漏れ来る先はと見れば、切れ味鋭い小刀で刻み出したようなシャープな唇から、真っ白い歯を零し、その隙間には濡れた小さな舌がのたうっては誘っている。
 耳と目から強烈な麻薬物質に同時浸食され、堪らず首筋に顔を埋めてかぶりつくと、白い腕が上がって祐介の首にするりと巻き付いてきた。
 舌先で湿った跡を付けながら、辿り着いた耳朶を咬み、その下の脈打つ柔らかい皮膚をきゅうっと吸い上げると、ふるるっと相手の全身に戦慄が走る。片手は背筋の支えに残し、利き手は前に回して胸を弄り始めれば、「ふン…、ん…っ」と切なげなねだり声がすなおに上がり、木石ならぬ身は急かされていよいよ夢中になってしまう。
 愛しさのままに、敏感に捩れる肢体をさらに責め立てると、首を拘束する腕に力が入り、太腿が祐介の上体を挟み込んで情熱的に締め上げてきた。
 揺れる腰を擦り付ける、明らかにその先を催促するしぐさ。力が抜けてもう支えられない頭はシーツに落ちてがっくりと反り、露わになった喉元がびくびくと戦いて、相手が秘めている期待をありのままに伝えてくる。
 ――これは、俗に言う“疲れ何とか”ってやつだな。
 こんな積極性や率直過ぎる反応は、常の雄一郎には断じて見られないものだ。疲労の極限状態に置かれると、理性が機能放棄して抑制が失われ、さらにはストレスに対抗して増産される覚醒系の神経伝達物質の悪戯で、全身の感度が異常に研ぎ澄まされる、と聞いたことがある。
 日頃の装甲をがらりと脱ぎ捨てたかのような、余りにも鮮やかな情人の変貌ぶりに、そんな聞きかじりで何とか説明を付ける。そうでもしないと、こちらまで一切の歯止めから何から全部逸脱して、何をやらかすか分からなくなりそうだった。
 ああ、それなのに。
「んゥ……っ」
 なにを余所見してる! としか聞こえない唸り声と一緒に、首っ玉が掠われ、口に口が噛み付いて来た。
 諸事情あって、他との比較は出来ない祐介なのだが、雄一郎との口づけは何度重ねても千変万化、馴れる飽きるとは縁がない。映画や小説で有りがちな通り一遍の前戯、交情へのアペリティフ、などという範疇には到底収まるものではない。
 今日のそれは、まるでケンカ腰に挑みかかる態の――、俺が気を散らそうとしていたのを怒ってる? だって、君の体が……、と胸に言い訳して宥めれば、「ふ…っ、ふ…ゥ、ん…っ」と鼻から抜ける息が聞くだに愛らしくむずかって、眩暈とともに祐介の脳髄を蕩かす。
 くっそぉ……、こいつ、俺を殺人犯にする気か…っ!
 まだ足らん、というのか、気が付けば凶悪な手が下方に忍び、祐介が全力の手綱捌きでやっとのことに御しているところへ、意図も顕わな指が巧みに絡みついてきた。
「あ……ぁっ、ゆういちろ…っ」

 ――そうだ、ヴァイオリンという楽器は、なぜか利き手で弓を操るんだよな……。
 気が遠くなるような快感が噴き上がる中で、祐介の脳裏にまたしても益体もない想念が浮かぶ。
 べらぼうに面倒な調音は、どうしてだかわざわざ左手を鍛えてこなすんだ。
 酷い。雄一郎は両利きみたいなものじゃないか。ただでさえ剣道だって柔道だって、鬼みたいに強いのに。
 酷い。敵うわけないじゃないか。

 切々と。一体なにに訴えているのか、酷い、酷い、と繰り返しながら、祐介は持てるすべての憎らしさと愛しさの極み、力の限りに掻き抱いた想い人の中へ、思い切りダイブした。


     *     *     *


 一晩中舞い散った雪は、満足したかのようにケロリと上がり、白一色に染まった下界を、陽射しが眩しく照らしている。
 だが、八潮団地の一室、ささやかなる愛の巣には、未だどんよりとした空気が垂れ込めていた。
「だから……」
「誘ったんは、主に俺や言うんか」
 上目遣いに相手の顔色を窺いながら、こくこくと肯くが。じとーーっと睨め付ける雄一郎の切れ長な双眸は、完全に取り調べモードで、正直怖いといったらない。ゆうべはあんなに可愛かった…もとい、色っぽかったのに………。反則だよ、警部さん。
「昨夜は酒は?」
「一滴も飲んどらん」
「睡眠は――」
「横になってないのは3日…か。まぁ、飛び飛びにでも、なるべく寝るようにはしとったが」
「それじゃ記憶もぶっ飛ぶな……」
 ――俺の無実は立証不能か。
 早々に自己弁護は断念した腕利き検事は、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回した手の影から、竜巻が通過したような寝室の惨状を眺めやって失笑した。無実…ではあり得ない、か。あれだけ好き放題やっておいて。
 一夜の荒淫もその艶を減じ得ない、むしろストイックな容貌に隈と窶れが凄みのある色めかしさを加え、いよいよ悩ましい風情の雄一郎が、フウと盛大なため息を吐いた。
「当事者しかおらんもんを、どうこう言ってもしゃあない。こういうことに関しては両者同罪や」
 おや、また偉く寛大な。
「だから、昨日のことは一切証拠採用なし。記憶消去。ええな!」
 ――ん? ここまで処罰が緩いのは怪しいぞ。こいつ、断片では記憶が残っているんじゃないのか。
 疑惑を下敷きに相手の目を覗き込むと、寝不足プラス寝起きで壮絶に青白い顔貌に、きつい眼光を放つ目元からじわじわと赤味が差してくる。――ほほう? これは愉しそうな。くるりと目線を逃して見えた横顔の耳も、何やら旨そうな薄紅まぶしだし。
 理性も人格もぶっ飛んだ雄一郎もめずらかに貴重だが、小骨の多い、頑固で素直さのカケラも無い普段通りの彼を、頭も体力も駆使し、苦労して手間暇かけて一枚一枚殻を剥いて食べるのも、この上ない美味なのだ。
 幸い、今日は公休。警部殿は仕事明け。たっぷり時間をかけて、今度は此方の取り調べにかかろうか。なあ、雄一郎?

 にんまりと笑む祐介の清麗なサドづらを、雪の眩しい照り返しが華やかに彩り、祝福していた。




                                                ◆おしまい◆
***************************************

ああ……、三千世界に付ける薬とてございません!
祐介に? 俺に?(^"^;)
タグ:蜜月期 八潮
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コメント 2

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りく

おや、こちらでも疲れなんとかですな(笑)
というより、疲れていないときってのがあるのかしらこの人たち…

ですが、翌日の雄一郎のやつれっぷりが想像するだに
壮絶に色っぽいですねぇ。
なんか、一ヶ月くらい出入り禁止を言い渡されても、
いろいろとしたくなるんですけど。すいません、私も少しSの気が(爆笑)

ところで、雄一郎はいつも氷をひとかけ入れているので
分類としては「ロック」ですね。
「四日分まとめて」の150ccのウィスキーの意味するところは
ロックグラスに入れてみるとはっきりわかりますが、自棄酒です。
義兄が見たら眉をひそめて怒り出すでしょう。
なので、祐介と飲んでいるときは、もう少し上品にネコを被りつつ
飲んでいると思います。
by りく (2012-01-25 23:53) 

げこ

りく様

疲れ××(さすがにズバリは書きにくい) 女子にもあるからこれは想像できるってんで…//////

初手から悶えまくりのアンアン受けには何もそそられないんで、仕方ないんですが、
合田さんの理性が邪魔だという訳じゃないが、いつもどうやってヒューズを飛ばすか
ばっかり妄想してるみたいです。
いや、義兄がんばれ! いま8合目、あと少しだ!と発破をですねぇ~(^_^;)

遠島1ヶ月の刑で許されるなら、月に1回やっちゃうなー、もし私が義兄なら。
どうせデートなんか、月イチくらいしか出来んやろし、おんなじこっちゃ!(爆)
合田さんFanはすべからくSでしょう! そして女子だろうが攻め!
……あっ、それは加×合限定の持病かな? 合×加の人はまた違うのかしら。

なるほど、ロック、でしたね。でも、氷が溶けた分しか薄まらないんですよね……。
それで計量カップにあれくらい、一晩で飲んじゃうんだぁ!(つか一瞬だろ、あいつ…)
そりゃ怒るわ、義兄。あったり前や! 猫ぐらい被れ!

と、申しますか、体も肝臓も休めてあげてください……
長生きして、お願い~~~(・_・、)ほろほろほろ…

また、この知足らずに足りない知識を補ってやってください(^人^)
いや、お酒に限らず!(爆)


by げこ (2012-01-26 09:33) 

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