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雄一郎、病み上がり〔1/3〕 [捏造◆作文]

捏造作文、第3作です。

だんだん調子に乗って来た? いやいや。当ブログ捏造の勝手な時系列下では第2作直後、
雄一郎なんかお熱で、大人~しく布団の中なのに、今回はチュウすらしていないぞーーん! 
せーの、根性無し~~~~[exclamation]

……すみません。まだまだ修行中もいいとこです。
ウソ八百の捏造なのに、「雄一郎」とか「祐介」、どころか一般名詞の「主任」だの「義兄」だの
キーボード打つだけで、心臓ばくばくです(^"^;)
 
でもシアワセ……[黒ハート](エンドレス崩壊中)
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 雄一郎が、珍しく酷い風邪を引き込んだ。
 いつもなら、対ウイルス特効薬は意地と意志!とばかり、体調不良を不良と認めず走り回っているうちに、治す…というより無かったことにしてしまうのだろうが。本庁の国際捜査課へ昇任人事で返り咲いてしばらく、諸々軌道に乗るまでは、さすがに無理を重ねていたのだろう。
 ついに病状目に余って上司同僚に追い出され、警部殿がよれよれで帰り着いた晩に、祐介がたまたま訪問していたのは、日頃の信心の賜物か。
 元より、神より下された僥倖を無下にする祐介ではない。役得を存分に堪能し、種々のチョッカイを楽しみながらも、大切な元義弟を懇切丁寧に看護したことは言うまでもない。


 声のない、息音だけの絞り出すような咳は一晩中続き、聞くだに辛そうだったが、大量に摂らせた水分が功奏したか、熱が下がるのと比例してその数は減っていた。
 明け方、汗でびっしょり濡れてしまったパジャマの替えを持っていってやると、「すまん」と一言、別人のように掠れてはいるものの、昨夜から初めて雄一郎の声を聞くことが出来た。
「酷い声だな」
 苦笑すると、返事をしようとしてまた咳き込む。
「まだ喋るな。ほら、腕通して」
 袖口から迎えにいって掴んだその手は、まだ少し熱い。
 ようやくの解熱の兆しでしっとりと汗ばんだ肌を辿り、肉付きの薄い胸に掌を当てて、ゆっくりと確かな鼓動を確かめる。


 雄一郎が刺されたという知らせに駆けつけた病院の、閉ざされた手術室の扉前で過ごした十時間。己の思考はともかく生身はその間どうしていたのか、拭い去ったように、祐介には記憶が全くない。
 どうか還って来てくれ、神よ、彼を奪い去らないでくれ、と全霊で祈りを捧げながら、自分を祈るだけの無力で無垢な存在に置いておくことはどうしても出来なかった。祈る者は、ただ祈ることのみ許され、結果を左右することは出来ない。どちらに転んでも神を恨まず、受け入れて対処する、従順にして実は不屈な存在だ。我が身のどこを探しても、そんな潔さも、覚悟も勇気も、一片すら見つけることは出来なかった。
 そんな、意のままにならない天秤に載っているのが雄一郎だなんて、俺にはとても耐えられない。恨まないなど到底無理だ。
 希望と絶望の中央に、無慈悲に宙ぶらりんに留め置かれる苦しみに耐えかね、もう死んだものと思った方がいっそ楽なのではないか……という誘惑にすら駆られ。
 だが。彼亡き地上に、では、これから俺はどうやって息をしていくのだ、と考えた瞬間、比喩ではなく肺腑がねじ切られる実感に、祐介はのたうった。床にくずおれ、涙も出ない疼痛に声無く呻く。
 それを十時間、行きつ戻りつ、果てもなく繰り返す。
 いっそこの俺を切り刻んでくれ、という悲憤が、記憶を刻むのを拒否したのだろう。これが不遜な自分に対し、唯一許された慈悲というものか。

 過ぎてから顧みれば、よくぞ造物主を恨まなかったものだと、その幸運には感謝したい祐介だった。
 ただ小心だったからかもしれない。雄一郎の生還に即座に帰依し直したような気もするし、斬撃の元凶、雄一郎本人への恨み辛みで満身が一杯だったからかもしれない。
 本当に、手術中の十時間もだが、その十時間がどのように終わったのか、直後の辺りも記憶がないのだ。
 地獄から這い上がった己が、天国から舞い戻った…否、突き落とされた 雄一郎に向かって、投げつけた一言。ただその記憶だけを除いて。


 その後、またもや身も心も揉み絞るような、すったもんだを経て。取り敢えずは、万事収まるべき(と信じたい)ところに収まって。
 ―――残った後遺症が、これだった。
 雄一郎が生きている。確かに、その心臓が脈打っている。
 少し病的か?とも思いながら、相手が手の届くところにいる限り、確かめずにはいられない。どんな夜中の細切れの覚醒であっても、その呼吸と鼓動を確かめずして安眠することが出来ない。

 気が付くと、雄一郎の目が、己が胸に当てられた祐介の手をじっと見つめていた。
 同じ過去まで遡り、その顔が痛みに引き歪むのを見出す前に。速やかに、祐介の手は布地をかい潜り、雄一郎の胸の突起に悪戯を仕掛けた。
「……っ」
 大人しかった拍動のリズムが瞬時に踊り、青ざめた頬に鮮やかな血の色が差す。
 ――ああ、雄一郎は生きている!
 体の奥底から湧き騒ぐ歓喜に、祐介の心臓も一気に逸る。この全身に巡る血は今、凄まじく甘酸っぱいに違いない。

「…ぅ……に、…にさ…す……っ!」
「はいはい。ゆっくり言え、これ飲んで」
 コップを渡してやると、喉を湿すや否や、
「――病人に何さらす!」
 と掠れる声で苦労しながら、律儀に憎々しげにリピートする。本当に、どこまでも可愛い奴だ。
「なんだ。丸一日も保たないで復活か。雄一郎に取り憑くような骨のあるウィルスだから、根性に少しは期待したんだが」
「…あんた、俺がダウンしてると嬉しいのか」
 雄一郎はげんなりと罵るが、何の、まだまだ。
「言葉を封じられた雄一郎、良かったのになぁー、人魚姫みたいで」
「な………っ!」
 甘言の瞬発力で、お前が俺に敵うものか。
「お得意の罵声も悪態も出ないと、どんなしかめっ面も可愛いものだ。無体を言いかけられた乙女もかくやって――」
 どかっ、と脇腹に膝蹴りが入った。
「恩知らず~」
 流し目付きで怨じてやるが、呻り声と共に布団包みは壁を向いてしまった。
「ペットボトルとコップ、ここに置いておくから。目が覚めるたびに飲めよ」
 声だけ掛けて、寝室を出る。
 病み上がりの病人なのは確かにそうだ。いや、まだ回復途上だったな。せめて朝までくらい、ゆっくり寝かせてやろう。
 
 ――ツケの取り立ては、それからだ。

 先刻湧いた全身の血は、まだ騒いでいる。責任を取って、お前に鎮めてもらおうか。
 端正で清廉な検察の涼風、加納祐介。その微笑は、時にサディスティックな色を帯びることを、知る者は極めて少ない。


                                                 ◆続く◆

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〔2〕に続く、予定。
……がんばろっと(^m^)
 


タグ:蜜月期 八潮
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