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11月7日 [捏造◆作文]

またいきなり降って湧きました。
あちこち書きかけで放置中ですが、ちょっと脱線して。すっごい小さな掌編です。

青子さんに捧ぐ(^_^)[黒ハート]
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 風呂上がり、だった。
「おう、空いたぞ」
 横を通りしなに声を掛けた食卓で、皿洗いも終えてぼんやりと一服していた義兄の後ろ首がひくりと跳ねた。「ああ」と半拍遅れた返事と共に巡った視線は、俺を薙ぐなり ぎくんと反射して逸れた。
 ――祐介?
 こんなアホみたいに些細なことが引っかかるのは、染みついた職業病かもしれない。
 濡れ髪をかき混ぜながら、タオルの影から義兄の様子を窺う。
「ビール、あったか?」
「ああ、買ってある」
「自分で取るのに」
 冷蔵庫へ立つ義兄は、すれ違うときも不自然にこちらへ目を向けない。どうも、一瞬の残像に見取った表情が直感に触れたのは、故のない錯覚ではなさそうだ。
 目を眇めた、……痛そうな?
 ――なんで、俺を見ると祐介が痛いんや。
 自分の思考にツッコミつつ、タンブラーを2つ出している義兄を見守る。あーあ、缶からてんでに飲めばええのに。また洗い物増やしてからに。
「ん」
「悪い」
 良く冷えたビールを受け取る隙に顔を見遣るが、前髪の影の瞳はまた巧妙にすいと逃げた。逃げながら、ふっと寄り道したのは……カレンダー? 日付が何か……
 ――とまで考えたところで、あっ、と腹を見下ろす。
 11月頭とはいえ、日中の最高気温がまだ20度を超す昨今、風呂上がりは暑くて、行儀悪くスウェットの下だけ穿いて上半身は裸だった。
 そのウェストに隠れるか隠れないかのところに、醜く攣れた傷痕がある。


 生死の狭間といえど、全身麻酔で終始気絶していた俺など呑気なものだったかもしれない。麻酔から覚めた後には暴挙の報いをたっぷりと受けたが、それは単なる傷の痛みで、もはや命の遣り取りではない。
 生か死かの天秤が無情に振れる間、本来なら家族が味わうのだろう煉獄の苦しみを、天涯孤独の俺のために一身に背負わされたのは、何の罪科もない祐介だった。
 18年に及ぶ長きに渡り、誠実に想い続けてくれた彼を一顧だにせず、ただ我が身一つの鬱屈のために、何もかもをかなぐり捨てて身勝手に逝こうとした愚か者のために。

 本当に。思い通りに動く間はロクに世話もしない、下駄代わりのクルマも一緒。己の身、己の命なんぞ、《動く間は》顧みもしなかった。
 焼かれて骨となり、痕跡も残らなかったかもしれない、この傷。脇腹の弾痕やら数々の古傷に埋もれ、日常の中で、今はもうさしたる意味も持ってはいなかったこの傷が、告発している。
 授かりものである命を忘れ、我がもの、自分だけの自由になるものと思いなす、許されざる傲慢を。

 一口も飲まないまま、びっしょりと汗をかいたタンブラーを、繊細な手が奪い去った。
「早く着ろ。風邪を引くぞ」
 全ての怒り、理不尽、魂に比すべき唯一の大切なものを奪い去られる悲嘆を飲み込んでなお優しい、信じられないほどに甘く柔らかな声が、低く降る。
 この地上にただ一人、俺の何もかもを、いつでも問答無用に引き受けてくれる男。
 傷痕の主がその存在すら忘れかけているのに、未だそれを目にするだけで、主の代わりに何度でも傲慢の罰である試練を受け続けている男。
「アホウ……」
 せめてもに、手のひらで覆い隠す。もはや完全に癒えて何の痛苦も記憶も喚起しない、ただの皮膚の凹凸。
 替わって、痛い、痛い、と果てなく鼓動を打つのは胸だった。
 切ない、切ない。
 済まない、済まない。
 このどアホ、零れるな。あの日の祐介は、そんな楽はしなかったぞ!
 なぜ忘れていたり出来たのだろう。麻酔から覚めて初めて目にした、涙どころか全ての感情が涸れ果てたような、祐介の目。愛する者の生還を歓喜することすら出来ない、乾き果てて放心した、あの目。

「何を目の毒をしてる。誘っているのか?」
 微笑む声と一緒に、傷痕を掴みしめた手の上に靱い手が重なり、温かな重みがすっかり冷えた背中を覆った。
「祐介………」
 言葉が続かない俺の横首に、良い香りがさらりと擦りつけられる。その髪に頬ずりした。祐介の匂いが切ない。
「良く還って来てくれたなぁ。今日はお前の2つ目の誕生日だ。一年に誕生日を2回祝える人間も、そうはいないぞ」
「――ゆうすけ…」
「ああ」

 祝いの品もセレモニーも何もない、突発セカンド誕生日。ナイフを持っていたキューピッドは、今この時も塀の中。

 この呪われた地上に、それでも俺たちは生きている。
 残された時を精一杯に愛し合いながら、生きていく。 



                                               ◆おしまい◆
***************************************


ほんとうに! 合田さんにはもう、何度でも猛省して欲しいですねっ!
もしあのまま儚くなっていたら、私がどれだけ泣いたと思うんです[exclamation×2]

でも、義兄もですが、合田さんにとってこの地上がどれだけ生き辛いものかは
凄くすごく良く理解できるんです。若い時分の他人構わずの傲慢も、
中間管理職になってからの放心や上の空も、形は違えど根は一緒で、
生きるための必然でしょうことなしに、世界との接続をセーブしてるように思えます。

ああ、おいたわしい……(・_・、) だからスキなんだけど。

タグ:蜜月期 八潮
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にきーた

運命の11月7日ですね。

偶然ですが昨日の夜、文庫版レディ・ジョーカーの再読が終わりました。
テーブルの上で握り合った手が、祐介の官舎で見つめ合い互いにそらした目が、もどかしくもとんでもなく官能的で…あぁ何度読んでも堪りません。

これ以上無いくらい手ひどく裏切られた祐介が、クリスマスイブ以降どのように自分に折り合いをつけたのか、二人が顔を合わせたときの第一声はなんだったのか―――考えれば考えるほど文庫のコピーじゃないですが、眠れぬ夜が来る!状態です。
いかんいかん、社会復帰!

雄一郎が、一年前の大事件をすっかり忘れていたということは、それだけ幸せな日々が続いていたということですよね?そうだと言ってください、げこさん~(つω-`゚)。゚゚
何しろ、布団をかぶり身をよじって病院のベッドで泣く雄一郎は、切なすぎる!

一年前電話ボックスで呼びかけた名前が、今目の前にいて自分に返事をよこしてくれる。(甘く柔らかな声で!^^)―――この瞬間、雄一郎は幸せを感じていますよね?

そして、自己完結の日陰の石をあそこまで悶えさせることができたのは、世界でただ一人…ということで、麗しの祐介殿にはこれからも雄一郎を見捨てないでやってねと願うばかりです。

注いだままになっていたビールは、二人が口を付けるころにはすっかり甘くなっちゃってるかも知れませんね。ウフフ…



by にきーた (2011-11-07 19:29) 

げこ


にきーた様v 
           いつもながらブラボーなコメント、感謝です(・_・、)

我が家の髙村本、書庫保管用と、常に手元に置いて読む用とあるんですが、
他のは全部単行本なんですが、実は、レディ・ジョーカーだけは文庫版が
手元に置いてあります。

最初は、義兄弟がお互いを訪問し合って泣き合うところが、単行本のほうが
沢山弱みを見せるし、文庫になってちょっと物足りなかったりもしたんですが(よこしま)

でも、ご指摘の例の「欲情」シーンですね~! 単行本の「今夜はありがとう」よりも
文庫版のほうが圧倒的に色っぽい!!(>_<) 合田さん、遂に自覚してるし!悶絶!
(でもでも、どうしてもつい「どっちが上だ……」という宇宙からの混線電波が…^"^;)

病院での、覚醒から退院までの一幕も、文庫版がもう断然好きです。
縫合した傷も裂けよと泣くなんて。あの、日陰の石の合田さんが!
もう泣くわ泣くわ、読んでるアタシが(爆)

文庫のコピー、巧いなぁ! 「眠れぬ夜が来る」? そうだよね、夜だよ!
パソコンに向かって呻吟してるよ、私の脳内イブを捕まえろ!!ってか(違……)
私の社会復帰はいつだぁ~! でも部活役員もPTAもバックレ成功したぞぉ!!(^^)v

命に関わる事態って、すっごい心配した周囲のが後々まで執念深く覚えていて、
死線を彷徨った当人は意外にケロリとしてたりしますよねぇ~(^_^;)
きっと合田さんもそうなんだ。
義兄、そんなやつ、優しく慰めてなんかやらないで、ギュウと言わせてやれ!
あ、それはこれから一晩、朝までジックリ泣かせて締め上げるのかぁ~(爆)
ビール、すっかり気が抜けて苦いだけの麦ジュースですね。ナメクジ死んどるやろ!

やっぱり、お二方にはとにかく幸せでいて欲しいです……一刻でも長く!
どうせこの後、長くもない中年期前半なのに、3年も離れちゃうんだから(号泣)
ばっかやろ~~~……でも仕方ないけどorz(読者はしょせんドM。立場弱い)
by げこ (2011-11-07 21:21) 

青子

素敵なお話をありがとうございます~~^^

雄一郎の暴挙にどれだけ驚き、怒り、悲しんだかしれない義兄。もしかしたら、
「君に俺は必要ないんだろう」
と、背中を向けられてもしかたなかったのに、こうして雄一郎のそばにいてくれる義兄(涙、涙、涙)
惚れた弱みって一言じゃ、あまりに切ない。切なすぎる><!
合田ファンのはずですが、このお話は義兄に肩入れしてしまいます。雄一郎、忘れるなよーーー!!

LJ文庫は色っぽさが単行本を凌ぐんですねっ^^
LJ単行本終わったら、文庫読まねば。ああ、いつになったらほかの作家の本が読めるんだ・・・
わたしの社会復帰もまだまだの模様。
今年、役員、掛け持ちなんすけど。もうじき行事が入り乱れの予定なんすけど・・・。

「LJ」から「太陽を引く馬」の間、二人に何があったのか?妄想が渦巻くーっと、叫びつつ、LJに戻ります^^
いよいよです。ドキドキ(再々読なのに)

by 青子 (2011-11-07 23:13) 

げこ

青子さまv


いや…、青子さんがLJを作中進行がリアル日付にシンクロするよう合わせて再読中、
と伺って、このネタ思いついたもので、感謝を込めまして(^人^)

義兄、己が人生かけた壮絶なロマンチストだと、げこ脳内では解しておりますが
だから合田さん思うのも、半端は許さん命懸けで、18年耐えるようなドMもマジでやる。
そんな御方だけにプライドも半端なくて、ほんっっと~~に、一体どうやって
イブを収めたのか、きっと女王は書けば書けるのに(書けば楽しいだろうに!)
敢えて書かない、読者に投げ与えて寄越す! ああ、アナタ様こそ真実世界一のドS……

ユルされるなら、ホントにインタビューしたいわよ、合田さんに!
土下座したんですか? 泣き落としですか? 色仕掛けですか? 武力による実力行使ですか?
--って。そして俺が実力行使で排除されるのだろう……_| ̄|○

あああ、青子さま、掛け持ちなんですね……お疲れです~(T_T)  
そうですね、秋は学校行事が情け容赦なくてんこ盛りですね!
自分も校外部と学級部とP役員と、合計で4年やりましたよ~。もう勘弁して!
私は不器用で、表の顔と裏の顔、使い分けられない。Pしながら捏造なんて出来ない(>_<)
今年だけは、合田さんへの純愛に生きたいんだ~~~い!!!(だから迷惑だって…)

太陽を曳く馬、実は坊さんズぶっ飛ばし読みしかしてない極悪不信心者なので、
これから心を入れ替えてちゃんと読むのです(^_^;) 
義兄大幅カットと聞いて、「新潮」バックナンバーも漁らないとダメそうなのに!
ほんと、いつになったら他の作家の本が読めるんだ……
長女とよく本や漫画の借りっこをするんですが(ママの髙村本は貸さないけど!)
最近めっきり付き合い悪くって、彼女はそれもお冠なんです(^_^;)
by げこ (2011-11-08 05:22) 

青子

11月7日の次は、イブですね・・・

二人はどう過ごしたんでしょ?
女王は「酒でも飲んだんじゃないですか」とかすっとぼけたらしいですけど。酒飲むにしても、何かあるだろう。
まず、雄一郎が誠心誠意謝る。謝り倒す。これは絶対。
義兄はどんな顔してるんだろう。なんて答えるんだろう。
本当に女王に書いて欲しい!
でも、本家が書いちゃうと、邪な読者一人一人のイブがなくなる?それもいやだなあ(我がまま)
なんだかんだありつつも、最後は義兄が雄一郎を抱きしめてくれれば、わたし的にはオッケイなんですが・・・出た、お気楽な着地点・・・


「太陽」は 曳く でしたね。変換間違い・・・

実はわたくし、この夏に再発するまで「太陽」はおろか「新冷血」連載中を知りませんでした。
だって、女王がもう合田は書かない。(正確には人が死ぬ話は書かない)って言ってたんだもん!
素直な?わたしは信じ込んでおりまして、合田の出てこない「晴子情話」は読もうかなあ?どうしよう?
「リア王」に名前が出てる?名前だけ?・・・なんてぐずぐず思いながら月日は流れていたのですが、再発と同時に、いろんな情報が脳内になだれ込みっ!さあ大変っ!!
とりあえず「太陽」だ。と、読み始めましたが、近代アートに禅問答・・・難儀しました・・・なかなか進まなかったです(悲)
この夏休みは「太陽」に明け暮れて終わったようなもんです。
でも、わたしにとっては約10年振りの新作!
おまけに雄一郎出ずっぱり!!もう嬉しくて嬉しくて~~^^本に頬ずりしそうでしたよ。まるで本が雄一郎のようで(変?、恋?)
相変わらず仕事に悩んでてて、ちょっと中間管理職の悲哀も漂わせてましたが(ごもっともです・・・って)トンカツ定食食べる雄一郎(驚)プールで泳ぐ雄一郎(ひえぇ~)なんて腐を喜ばせてくれるくだりもあったし^^ホントに幸せな夏でした。

しかし結局、嬉しいだけで終わってしまって女王が語りたかった内容は、さて?なので、これも再読リストに入れてます。
連載時の分も読みたいですね。義兄、出てたみたいなのに、バッサリ切られて。不憫な人だ・・・

お嬢さんと本や漫画の借りっこって、いいですね~^^
今、坊主を読書好きに洗脳中ですが、なんせ母が患っているので気味悪がられて終わるかも・・・です><




by 青子 (2011-11-08 12:31) 

げこ

青子さま♪


イブはですね~、myイブはもう筋書きプロット立ってるんです(^m^)
抱きしめるは勿の論ロン♪ですが、もうちょっと色々やるぞ(ゴラア!)
そいつを文字でも絵でも何とか形にしたくて、ブログ始めたようなもんでして。
今、カラー絵を練習しながら、モノクロ頁漫画もモノにしようとソフト選定中です。
見果てぬ野望だなぁ…… 槍を登攀する方が、まだしも現実的かもしらん(^_^;)

本当ですよ!! 女王が書いて下さったなら、こんなゼロから始めるパソコン漫画、
なんて全然やる必要ないんだ! 鼻水だぁだぁ流しながら泣いてりゃいいんだもん(>_<)
ま……、そこで決して書かないが故の、我らが女王なんですが(*^人^*)
もう何なさってもスキvってしかならないからなぁ~、つける薬がない。

私も実は、自宅で取ってた日経新聞連載も読んでませんでした……難解すぎてorz
信者失格でござりんす。「新冷血」も、1回分の文字量の少なさに毎号追うのは
無精して、単行本待ちを決め込んでました。
ネットで同志諸姉が騒いでらっしゃるのに気付かなかったら、「湖北の宿」投下も
「次号完結」も知らないまんまでしたよ! ほんとブッたるんだ信者だ(^"^;)
再読に再読を重ねても、現代アートも宗教も絶対追いつけないだろうなぁ…(でも読むけど)



私も本抱いて寝てます~、難しい退屈な箇所ではすぐ寝るから~♪(どアホウ!!!!)
いやいや、冗談はさておき、私も変ですよ~、「照柿」では一人称が合田じゃなくて
「雄一郎」になっただけで、20ページ読み進めても動悸が収まらないんです。
今まで、職務中のお姿を遠くから双眼鏡で追っていた御方を、私生活まで入り込んで
歯磨き、お食事から寝顔まで(ぎゃあああああ!)逐一のぞき見してるみたいで……
おかげで「照柿」、読み通すのに一番時間がかかった「リヴィエラ」より時間が要った( ̄∇ ̄)

ほんと、合田さんはぼ~っとしてても、淋しそうに黙ってても、若い者についてけなくて
呆然としてても、切れた受話器持ってほろほろ泣いてても、どんなお姿にも心臓鷲掴み。
ああ……、次のご出演作はいつかしら。定年まで追ってくれないかしら。
定年したら、義兄と一緒に明るい農村やってくれないかしら!(脳天気)


ウチの娘、これだけママが腐乱してるのに、腐る気配もないんですよ~。
こんなに英才教育してるのに!(爆)
パパがハイファンタジーだからなぁ……ママの毒気を中和しちゃってるかも(^_^;)
本好きに育てるには、絶対本を薦めず、家に良い本が散乱してればいいんですって。
諸田玲子先生が日経コラムで仰ってました。なるほど!です。「

by げこ (2011-11-08 13:16) 

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